NHK長野放送会館
照明学会誌VOL.82 NO.1によせた原稿から
NHK長野放送会館の光
−これからのライトアップの手法−
The lighting of NHK NAGANO STATION - The futere method of lighting
1.NHK長野放送会館
この建物は、21世紀の放送局としてどのような建築が可能か、広く案を求めるため、公開設計競技というプロセスを経て実現した。設計者のみかんぐみは、そのコンペのために集まった5人の建築家がイーブンパートナーとして結成した組織である。様々な意見を排他的にではなく、できるだけ吸い上げた形で実現しようと努めている。照明に関しては、建物のライトアップを中心に、ライトフィールド・アーキテクツと設計段階から何度も検討が繰り返された。単純にライトアップするのではないよりよい結果を模索するためである。

NHK長野放送会館のダイヤグラム

コンペ時の模型写真(撮影/平賀茂)
2.ライトアップの手法
「ライトアップ」という言語はやっとこの日本でも定着してきたようである。直接的には東京タワーから始まり、今では都市のさまざまな施設、道路(インフラ)が夜の景観の中で光り輝いている。バブル景気の終演とともに「ライトアップ」ということの意義に疑問を持っている者も少なくはないだろう。私たちもこの施設の外観照明という命題に対して、単純に「ライトアップ」を行うことに抵抗を感じていた。計画を進める上でこれからの「ライトアップ」を夜間景観の中でどのように位置付けるか、またどのような理論が今後ありえるのか、そんな一つのプロセスを紹介したい。
2-1ライトアップの必要性
まず「ライトアップ」が求められているのはどのような場合であろうか。商業主義的(公的で観光を目当てにしたものも含む)、地域のランドマーク(橋、道路、拠点、歴史的建物など)などであろう。特に近年目立つのが、多大な費用を投じて建設された建造物は全てといって「ライトアップ」されている。その場の話題性が高まるれば善しと判断される事、すなわち一般市民の理解が得られる事が「ライトアップ」の必要性と置き換えられている。不経済であるなどという政治的判断が入りイベント的にしか「ライトアップ」を行っていない場合も現実としてある。では一般市民の理解という難題にどのように対処していくべきなのであろうか。
2-2ライトアップの正当性
「ライトアップ」といえば、どのような場合に成立するのであろうか。代表的な例は「商業主義的な光」の場合であろう。銀座や新宿の歌舞伎町、パチンコ屋のネオン看板、ガソリンスタンド、はたまたコンビニエンスストアなどの光はそのさいたる例ではないだろうか。しかし景観上、居酒屋の赤提灯は許せてコンビニエンスストアの強制的な蛍光灯は許せないという論旨は経済国日本の穏健を受けている者は一方的に否定することはできないはずである。次ぎに「美しさ」という場合はどうだろうか。市民に親しみある「美しさ」を提供する事は必要不可欠であるようであるが、この「美しさ」ほど曖昧な判断基準はない。人の主観は時代とともに変化し、世代によってもさまざまな感覚を持ち合わせている。価値観が多様化しているこの時代の中ではたして「美しさ」が本質的な価値観となりえるのか、疑問である。つぎに「場所性」を引き出すという場合であるが、歴史的背景のある施設、場所においてはライトアップの必要性が求められている事が多い。歴史という価値観は一般化しているが、ただ注意しなくてはならないのが、そもそも「ライトアップ」という手法はここ近年の様式であるということである。人工的で強力な光の放出が可能となった現在において、はたしてその建物、場所を新たな様式で覆うことを今一度、検討する必要があるのではないだろうか。
2-3ライトアップの今後
市民へのサービスとしての「ライトアップ」は今後どのような論旨が必要となるのであろうか。答えはまだ見つかってはいないのが現状であり、きっと一つの答えというより新たな価値判断が必要になるはずである。その為には、さまざまな実験的試みをふまえた「ライトアップ」が今後出てくることを期待したい。新しい時代というより今の時代の光環境をどのように整備するべきかを皆とともに議論する場を設ける必要もあろう。ハレとケのハレが街を埋め尽くし始めているように感じられる今日である。
3.NHK長野放送会館のライトアップ
計画当初から夜の外観上の見えかたをどのようにするかは最重要のデザイン的検討要素であった。実施設計ではタワーを外部から照らし上げるための投光器を配置していた。現場監理の段階で、徐々に表面のルーバーの詳細が決定してきた中で、詳細なモデルを使ってライトアップのシミュレーションを行うのと同時に、はたしてこの施設で「ライトアップ」が必要かどうか、もう一度検討し直すためのミーティングが何回も行われた。
3-1考え方の整理
「ライトアップ」ということをこの施設でどのように解釈するか再検討をおこなった。「ライトアップ」をおこなう必要性の一般的なキーワード、「コマーシャル性」「ランドマーク性」「場所性」などを抽出した。しかし、ここNHK長野放送会館が立地している場所において、「ライトアップ」が承認されるための論旨は見つからなかった。しかし国際的なイベントである冬季オリンピックのアイスホッケー会場/ビックハットの広場に面しており、オリンピック後も市民の集まる並木公園が計画されている。この施設がランドマークとして「目立つ」ことは我々設計者が望む所でもあった。しかし、ただ「目立つ」ための「ライトアップ」する論旨が見つからなく、設計者、施主(NHK)とも含めて、数カ月にわたり議論した結果、冬季オリンピック開催時は、必要とあれば仮設的に外壁を「ライトアップ」し、常設的な「ライトアップ」の設備は設置しないことになった。むやみやたらに「ライトアップ」をおこなわないという勇気ある決断がここに結論された。
次に私たちはタワー部に設置されるメンテナンス用の照明設備について検討することとなった。タワーは夜間メンテナンスを行うために照明設備が必要であった。慎重に検討されたタワーのデザイン性を壊すことなく、夜間の不必要な光の漏れ、願わくは月に数回点灯されるであろう夜のシーンに対して、機能性を満足した上の「光のデザイン」ができないだろうかという立場で、照明計画を再検討するにいたった。
3-2光のシミュレーションによる検討
当初予定されていた、全面を「ライトアップ」する手法の見えかたの再確認も含めて、50分の1のスケールのモデルを使用して、光のシミュレーションをおこなった。図aは全面を外側から照らし上げた場合で、下部から上部に向かって緩やかに光のグラデーションがかかり、タワーのスケールを自然に表現している。図bはメンテナンス用のデッキ部の両脇の鉄骨部にブラケット式のダウンライトを配置した場合で、裏側からの見えは鉄骨造としてうまく表現されているが、全面は比較的均一に照らされるが、縦方向の鉄骨の影がきつく出てしまうことがタワーのデザインとして相応しくないと判断された。図cはメンテナンス用デッキ部に手摺照明的な光を配置した場合であり、デッキ階ごとに横方向の光が強調されている。このモデルでは表現されなかったが、オフィス部の光も同じようになると予想され、また、デッキ部の安全性を考慮した機能的な光としても満足するということからこの案が採用されることとなった。

図a:外部から照らし上げた場合

図b:ダウンライト型ブラケットの場合

図c:デッキ部に手摺照明を用いた場合
3-3ライトアップの手法
照明器具は屋外用蛍光灯トラフ(FL40WとFL20W)を各デッキ階の手摺部に連続的に設置した。また寒冷地であることと、氷ついた雪などが落ちて、直接的な損壊がないように透明樹脂製の筒の中に光源が入っているタイプの照明器具を採用した。また、地下の見学者コースから、このタワーを見えげたさいの見えかたを多少考慮して、ハロゲンランプ150Wの投光器、2台が地下部からタワー内部を照らし上げている。
5.最後に
今回、私たちはタワーの「ライトアップ」を直接的におこなう為の理由を見つけ出すことはできなかった。しかしメンテナンス用の光をコントロールすることにより、施設全体の外観上の光は機能的に点灯された光が内部から外部に見え隠れするような光を自然に見せることとなった。(角舘政英+竹内昌義)
建築概要
所在地:長野県長野市稲葉214
施主:日本放送協会
設計:みかんぐみ一級建築士事務所
設備設計:第一設計事務所
照明計画:角舘政英+藤原京子
竣工:97年6月
施工:大成・守谷・飯島建設共同企業体
電気工事:関電工・きんでん共同企業体
タワー部照明設備
FL40W屋外用蛍光灯トラフ×54台
FL20W屋外用蛍光灯トラフ×23台
「NHK長野放送会館」は95年の建築設計公開コンペにより選ばれたみかんぐみの案によって設計が行われ、97年6月に竣工した。計画当初から外観上、演出照明をどのように扱うかを検討した結果、基本的には内部から漏れる光、または機能的に寄与している光を自然に見せることとした。
タワー部分はFL40Wと20Wの屋外用蛍光灯トラフがメンテナンスデッキに沿って配置され、また廊下部分は連続的に配置されたFL40W天井埋込型蛍光灯器具から漏れる光によって、ルーバーを間接的に照らし出している。
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