虹窓の科学 -The Window is Painted-



1.「虹窓」との出逢い


照明デザインを志してまだ間もない時、京都に住むインテリアデザイナーから「虹窓という窓があるのですけれど、なぜそう呼ばれているのでしょうかね」と質問されたことがある。そもそも「虹窓」という言葉自体知らなかったので答えようがなかった。それから半年ほどたって、急にその「虹窓」が一体どんなものなのか気になり、京都に向かった。猛暑の中、目的地は右京区の嵯峨にある祇王寺である。
真夏のせいか人は少ない。入り口でパンフレットをもらい斜め読みをすると「吉野窓:控えの間の大きな窓を吉野窓と言い、影が虹の色に表れるのを以て一名虹の窓と称している」と記してあった。わざとそしてゆっくりと苔庭を楽しみ、気持ちをおさえるように控えの間の吉野窓の前に立つ。この時は空間を楽しむよりも、もう目はディテールを観察していた。「虹というからには7色だよな」と単純な発想をしていた私はそれを見た瞬間がっかりしてしまった。障子に映る影ははっきりとした7色ではない。ただいくつかの色の影が出来ているのは解った。そしてその影の色は青、緑、赤の重なり合いの影であり、なおかつこの色の違いは微妙であった。ニュートンでさえプリズムを使用して、やっと自然光をはっきりとした虹色に分解したのだから、いくら日本に自然光を取り入れる文化と技術があっても、「虹窓」とネーミングするのは多少大げさかなとも思ったりした。しかし現実にいくつかの色の付いた影が現象として存在するからには何らかの原因があることは確かである。青、緑、赤、この三つの色は窓の外の景色の要素である、青空=青、竹薮=緑、土=赤であることに気がついたとき、ピンとくるものがあった。すなわちこの障子に映る影は、外の状況をそのまま映しているものであり、言い換えれば外部環境が変化すれば影の色の組み合わせも変化するはずである。あれこれ思考を巡らせているとすぐに2、3時間たってしまった。
帰りにここを管理しているおばさんに「ここの虹窓が一年の中で一番美しいのはいつですか」と質問すると、「秋の晴れた午前中、そう8時ぐらいが一番きれいに見えますよ」と教えてくれた。この時以来、何回か祇王寺には足を運んだが、おばさんのいう秋の晴れた午前中には未だ訪れていない。

    


1.「虹窓」との出逢い
2.「虹窓」の原理
3.「陰影礼賛」は日本の光?
4.フランスで見つけた「虹窓」
5.日本のあかりの機能的な側面
6.「虹窓」は環境投影装置

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