虹窓の科学 -The Window is Painted-



5.日本のあかりの機能的な側面


日本の照明器具の発展を見ると、ある時代で途切れている。有史以来、燃焼光源を用いてきたという点は日本も西欧も変わらない。しかし西欧では蝋燭の文化から石油ランプ、電球へとその光源の種類を変えても、スタンド、ブラケット、ペンダントといった照明スタイルは変わらず、一つの流れを保っている。それに対し、日本では従来、行灯などスタンド形式の照明スタイルであった物がランプという照明を輸入したことにより、住生活の中にペンダントという形式を取り入れ、大きな変化をもたらした。天井から吊り下げられた照明は部屋の隅々まで均一に明るさを得ることができるもっとも適した手法である。日本の住空間の照明が天井に移った時、日本の照明の歴史は途切れたといっても過言でない。実際に光の年表を見てみると、今の私たちの生活のまわりで見る事がないものがほとんどである。このことは今まで日本が培ってきた光の歴史はより明るさを求めていたことではないだろうか。行灯などの照明手法は炎と自由につき合う限界であり、そこからは十分な明るさを得ることは非常に難しかったのであろう。ゆえに、西欧から輸入された、新たな照明手法は効率的で、なおかつ機能性(夜間の生活、例えば読書の際など)を満足させていた。日本人は今までの照明手法を捨て、新しい照明手法に飛びついた。日本の光を取り戻すには、疑似的な様式だけを真似するのでなく、日本の生活と光の関係の本質を掘り起こす必要がありそうである。
現在の空間を構成するあかりは、全体照明と局部照明(スタンドなど)である。局部照明の扱い方によってその空間の表情は一変してしまう。壁際に置くのか、部屋の真ん中に置くのか、または光を拡散するシェードなのか、影を落とすシェードなのかも重要な要素となる。西欧の人は壁紙を選ぶのと同じように光をインテリアの一部として扱ってきた。日本ではまず全般照明という考え方があり、特に初期の住宅ではインテリアの素材の選択肢は限られていて、自分でインテリアを工夫する習慣が根づかなかったのと同じことが光についても言えたのではないだろうか。そのため習慣的に全般照明で明るく、なおかつ白い光でということが今なお続いているのである。しかし生活の多様化、照明に対する認識の深まりなどとともに機能的な光が白い光、演出的な光が黄色い光という図式が今後変わる可能性は大いにある。白い光と黄色い光の対立は今後は緩やかに無くなって行くように思われる。今後の動向を斜に構えて見ていたい。





1.「虹窓」との出逢い
2.「虹窓」の原理
3.「陰影礼賛」は日本の光?
4.フランスで見つけた「虹窓」
5.日本のあかりの機能的な側面
6.「虹窓」は環境投影装置

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